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本人が自覚をしたとき、脳が鍛えられるんです。
我々が体を動かしているときというのは、ほとんどがオートマティックです。ペットボトルを持つときに、今までの経験からどのくらいの重さかわかっていて持ち上げるでしょうし、目をつぶっていてもペットボトルの水面の位置がわかっているから、こぼれるぎりぎりまで斜めにして飲むことができる。これは一回一回考えているわけではない動作です。
試合でも同じです。一回一回考えていたら負けますよ。つまり、なんで練習するかといえば、考えなくてもできる範囲を増やすことにあるんです。集中すべきところ、気を配るところ、作為的にするところをどのエリアにするか、といったことを練習で学ぶのです。
試合では、練習したことが、ランダムにつぎつぎとやってきます。「これやってません」というわけにはいかないでしょう。だから試合ってものすごく疲れるんです。練習の方が肉体的には疲れているはずなのに、試合のほうが疲れるというのは脳をフル回転しているからなんです。
優秀な選手の脳は、アドリブに長けている。
スポーツにおいて強い子、上手い子というのは、つねに高い目標を持っています。ですから試合以上に、日々の練習において、高い集中力や緊張感があり、考えて練習しています。それに慣れているからこそ、試合でランダムにやってくる展開に対してとっさのアドリブが効くんです。
アドリブについてもう少し話すならば、パーツパーツで、ルーティーンな練習をしてきた子よりも、面白おかしくゲームとして練習してきた子というのは、さらにその上に簡単にいってしまうことがありますね。「その手があったのか」と大人が舌を巻くようなことをやってしまう。ルーティーンに習った子というのは、かならずそのルーティーンにすき間がある。そして面白くないという気持ちがあるはず。毎日の練習がしんどい、面白くない、なんて言っていてはまずダメです。
強い子というのは、自分が毎日どれだけ楽しくそのスポーツに関わっているかを話せる子。そしてそのスポーツに没頭しているから、勝つためにあらゆることを考える。食事も大切だと思えば栄養のことも知ろうとするでしょうし、語学も必要だと思えば、進んで勉強をする。脳がつねに動いているから、いろんなことに気を配れるし、人が気づかないようなことにも気づいて行動できる。こういう選手に育てていくには、指導者や親といった周囲は、そのスポーツで、その子の脳をどのくらい喜ばせてあげられるか、没頭させてあげるしかないんです。
そして、最終的に「脳が鍛えられた」というのは、本人が自覚することだと思っています。自分に足りないことはこういう練習だとか、コーチに言われたことで自分が反省できたとか、まだまだ努力しなくてはだめだとか。高い目標に向かって、自分の今いる位置を自覚しながら至難を克服して上っていく。こういう過程があって、人間は、脳は鍛えられていくのです。
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