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虐待はしつけだ、といいましたが、正確にいえば、“勘違いした、しつけ”です。本当のしつけとは、「子どもの失敗を許すことによって、子ども自身が主体的に自分を変えていこうとする学習をさせることだ」といいました。つまり、お母さんが子どもの失敗を許せる心を持つことが、虐待を防ぐための基礎になります。では子どもを許せる心というのは、どこから生まれてくるのでしょうか。
その答えは、じつは「お母さんが自分自身を許す」ことなんです。
子育てを完璧にしようとしているお母さんたち自身、子どもの頃に執拗なしつけをうけてきています。その結果、自尊心に乏しいんです。自分をダメな人間と思い、ありのままの自分を認められないお母さんが、「私と同じような人間にさせるわけにはいかない。きちんとさせなくちゃ」と、子どもに期待をかけ、勘違いした“しつけ”をしてしまう。
人間はだれにでも、失敗はあるのです。うまくいかないことはいっぱいあります。でも自尊心に欠けているお母さんは、失敗すればするほど自分を責めてしまう。そしてますます、子どもに対する勘違いした“しつけ”を暴走させてしまうのです。
私のところには、子育てに行き詰まったお母さんが相談にやってきます。でも私はあまり子どものことや家族のことは話題にしません。話題にするのは、お母さん自身のことです。
「お母さんはいつもこうしなくちゃって言っていますが、それは自分を認めていないからなんですよ」「どうしてあなたは自分のことをそんなに嫌うの?」と。すると、多くのお母さんが「そういえば、私が今、子どもに言っていることは、自分が子どもの頃に親に言われてきた言葉です」というのです。
「そういわれて、子どもの頃、あなたはどんなふうに感じた?」と聞けば、お母さんは「一方的に親に怒られた」と涙ながらに言います。「それは悔しかったね。今の涙は、本当は小さな頃に泣いたはずの涙だね」と伝えると、次第に、子どもの頃からの呪縛がほぐれて、自分を許せるようになっていきます。自分自身で存在価値を否定していたことに気づくのです。
お母さん自身が自分を大事にしなくては、我が子を大事にすることなどできないんです。
それなのに「子どものために」といって愛情に満ちたしつけに頑張るなんて、お母さんの心が苦しいだけなんですよ。
「お母さんは、完璧でなくていいんだよ。失敗していいんだよ。手抜きしていいんだよ。休んでいいんだよ。嫌なことは嫌と言っていいんだよ」と私は言います。「子どものために一生懸命やらなくていい。自分のことを許すことに一生懸命になってください」と。
するとお母さんはみるみるうちに変わっていきます。自分を許すことができ、ラクになって、表情が穏やかになります。すると子どもとのコミュニケーションも穏やかになります。子どもを叩いたり、怒鳴ったりすることも減っていくのです。
お母さんが自分自身を許せる気持ちが、虐待を防ぐための最初の重要なカギなのです。
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