それってホント?妊娠・育児の“常識”を再検証!
風邪を治す薬は無い!親なら知っておきたい「子どもの風邪治療」(2)

解熱薬、咳き止め・鼻水止めの薬は必要?

解熱薬や咳止め、痰きり薬なども子どもによく処方されます。これらの薬はどうでしょうか?
「熱が出てぐったりしている場合は、解熱薬で下げたほうが、体力の消耗を防げます。ただし、高熱があっても子どもが元気なら、薬は不要。熱は、ウィルスや菌の増殖を抑え、体の抗体や血中成分が病原体と戦うために必要なものです。むやみに下げると、かえって完治が遅れることもあるでしょう」
数多くある解熱薬のなかで子どもに適しているのは「アセトアミノフェン」という成分です。

咳止めや鼻水止めの一部にも、大きな問題があると言います。
「咳止めの“中枢性の鎮咳薬(ちんがいやく)”は、脳の延髄(えんずい)の活動を抑えて咳反射を止める薬です。また、鼻水やくしゃみなどアレルギー症状を抑えるときに処方される“第一世代抗ヒスタミン”も脳の視床下部など中枢神経に強く作用します。
そのため、脳が未熟で発達段階にある子どもや赤ちゃんからは、痙攣や不整脈、呼吸停止などの重篤な副作用の報告があります。子どもの風邪への有効性について、エヴィデンスもありません
脳の延髄は、呼吸や循環、消化など生命を維持するのに必要不可欠な活動をつかさどります。大人でも、咳止め薬を飲むと、強い眠気やめまい、便秘などが起きることがありますが、これは延髄の活動が抑えられるせいなのですね。

「これらの成分は市販の総合感冒薬、いわゆる風邪薬によく含まれています。アメリカでは2歳未満、イギリスやフランス、カナダでは6歳未満には、市販の総合感冒薬や咳止めを飲ませないよう政府機関が警告しているほどです。日本では、含有量が少ないからという理由で規制されていませんが、それでいいのでしょうか?」


とはいえ、ゼロゼロと音がしたり、咳が長引くと心配にもなります。治療をしなくて大丈夫……?
「長引く咳や激しい咳には、百日咳やマイコプラズマ肺炎、アレルギーや副鼻腔炎などの原因が隠れている場合があるので、必ず、医師による診断や経過観察が必要です。
しかし、咳は、異物を体の外に排出するために体に備わった仕組み。ウィルスを含む痰などの分泌物や、ホコリなどを体外に出して治そうとしているので、風邪程度なら咳は止めないほうがいいのです」

風邪のあとに咳の症状だけが残ることがありますが、ほとんどの場合は、鼻や喉の粘膜が敏感になっているのが原因だ、と原先生は言います。わずかなウィルス感染や温度差、空気の乾燥など、ちょっとした刺激に過敏に反応してしまうのです。治ったかと思ったらまた次の風邪……と、くり返し風邪を発症してしまう子もいますが、深刻な病気に発展することはないそうです。
「こういうタイプの子どもも、だいたい3歳頃を境に体質が変わり、風邪や喉のゼロゼロが少なくなってきます。薬を飲んでもほとんど気休めにしかなりませんから、子どもの成長を信じて、体の成熟を待ってあげるのが大事ですね」

子どもの風邪の受診、目安はどうしたら?

風邪を治す薬はない、悪化を防ぐ効果も無い……それなら、受診する必要はないってこと!?
「その通り、風邪なら受診する必要はありません。待合室で長時間、順番待ちするほうが、かえって体力を消耗すると思います。夜間救急で受診するのも論外ですね」
ただし、生後3ヶ月未満で38度以上の発熱があるときは、重い細菌感染症の疑いがあるためすぐに受診を。それ以上の年齢でも、ぐったりしている、哺乳量が少ない、元気がない、1日中うとうとしている……といった症状が一つでもみられるときは受診したほうがいいそうです。

「とはいえ、初めて子どもを育てる親御さんは、子どもの症状が重いのか軽いのか、わからなくて当然です。“どうしよう、困った、不安だ”と思ったら、遠慮せず小児科を受診してください。治療が必要かどうか見極めるのが、医師の仕事なのですから。
親御さんが何度も子どもの風邪を経験するうちに、「この症状はいつもより重い、いつもとちがう」とか、「これくらいなら大丈夫」という判断ができるようになってきますよ」

受診の際には、一度ですべてわかるわけではない、ということも念頭に置いたほうがいいようです。
「風邪のような症状から始まる病気は多いので、初診では正確に診断できないことは多々あります。ふつうは3~4日もすれば治るはずの風邪が治らない、あるいは状態が悪化するなら、別の疾患の可能性を疑っていくのが基本です。
最初から、ありとあらゆる検査をしてほしいと言う人がいますが、それは過剰検査。病院は儲かりますが、患者にはメリットがないし、保険制度の崩壊にもつながります」

“後医は名医”という言葉があります。後から診た医師は、それまでの症状の経過や効かなかった薬を知ることができるので、正解にたどり着きやすくて当然、ということ。前医に診てもらっても、結果は同じだった可能性が高いのです。「1回行ってみて治らなかったら、次は別の病院へ」というのは理にかなっていないのですね。

そして、「なんとなく、いつもと違う、何かがおかしい」という直感も大事だ、と原先生は言います。「こうした感覚には、ときに驚かされることがあります。“うまくいえないけれど、子どもの様子が何か変です”と受診して、重い病気が見つかったケースを私は何度も経験しています。もしその直感がはずれだったとしても、それはそれで、よかったではありませんか」
子どもを一番近くでみていて、愛情をもって接している人が、何か異変を感じるときには迷わず診てもらいましょう。

2013年12月27日更新

原朋邦(はら・ともくに)先生

プロフィール

原朋邦(はら・ともくに)先生

はらこどもクリニック院長

熊本大学医学部卒業、関東中央病院でインターン、同大学院研究科修了。熊本大学付属病院小児科医局長、国立西埼玉中央病院小児科医長などを経て、所沢市の小手指で開業し20年。外来小児科学会理事や埼玉県医師会裁定委員なども務めた小児科のベテラン医師。
病気の診断だけでなく、子どもや家族の健康増進や予防医療、心の問題にも力を入れている。「トントン先生」と呼ばれ、多くの子どもたちに親しまれている。

はらこどもクリニック
ブログ「トントン先生のワクチン広場」
twitter

トップページ