それってホント?妊娠・育児の“常識”を再検証!
風邪を治す薬は無い!親なら知っておきたい「子どもの風邪治療」
風邪を治す薬などない!抗菌薬も市販の総合感冒薬も、子どもへのデメリットがある!? 風邪治療の基本について聞きました。
取材・監修協力:小児科医 原朋邦先生
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風邪を治す薬なんて無い!?
「風邪に抗菌薬」は大間違いだった!
抗菌薬の乱用はデメリットばかり
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解熱薬、咳き止め・鼻水止めの薬は必要?
子どもの風邪の受診、目安はどうしたら?
風邪を治す薬なんて無い!?
鼻水ぐしゅぐしゅ、ときどき咳こんでるし、あれ、ちょっと微熱もあるみたい。きっと風邪……。こんなとき、早めに病院を受診して薬を飲ませれば、症状も悪化しないし、早く回復するはず――。
ところが、小児科医の原朋邦先生は、そんな考えに“待った”をかけます。
「風邪のひき始めに薬を飲めば早く治る、ということはありません。残念ながら、悪化を防ぐこともできません。そもそも、風邪を治す薬なんて存在しないのですから」
風邪の薬がないって、どういうこと?それじゃあ、薬は何のため…?
「話をはじめる前に、まず、ここでの“風邪”の定義をはっきりしておきましょう。鼻水、鼻づまり、のどの軽い痛みや咳、発熱(38.5度未満)など、喉から上の気道(上気道)に症状がとどまっている状態を“風邪”とします。みなさんがイメージするところの、風邪の初期症状ですね。医学的には「普通感冒(かんぼう)」と呼びます」
咳がひどかったり、喉が真っ赤に腫れたり、38.5度以上の高熱が出ている場合は、風邪とは別の疾患の可能性もあるそうです。だから、今回の話とはちょっと別。
「風邪は、安静にして、しっかり水分補給していれば3~5日で自然に治るもの。薬で治療する必要はまったくありません」
「風邪に抗菌薬」は大間違いだった!
「風邪に効く薬はない」「治療の必要はない」といっても、実際には、受診するといろんな薬が処方されます。あれは治したり、悪化を防ぐためのものではないのでしょうか。
「おそらく処方されているのは、抗菌薬(抗生物質)や、咳き止め(鎮咳薬・ちんがいやく)、鼻水止め、去痰薬、解熱剤などでしょう。これらは症状を一時的にやわらげる薬。早く治す効果はありませんし、重症化を防ぐ効果もありません。
それどころか、なかには子どもに処方しないほうがいい薬もあります」
抗菌薬(抗生物質)は細菌などを殺してくれる薬ですから、風邪に効果があるのでは?
「ほとんどの風邪はウィルスによるものです。ライノウィルス、コロナウィルス、アデノウィルスをはじめ、細かく分類していくと800種類以上。これらのウィルスを抑える薬は、いまだに開発されていません。
抗菌薬は、その名のとおり“細菌”を殺す薬。ウィルスには効かないんです」
ウィルスは細菌のおよそ1000分の1という極めて小さなもので、その構造も、人体への作用の仕方も、細菌とはまったく異なるので、薬が効かないのだそう。
とはいえ、風邪が悪化すると、中耳炎や副鼻腔炎になってしまうことがあります。風邪だと思っていたら、肺炎になってた!という話も。これは細菌感染によって炎症をおこしている状態のはず……あらかじめ抗菌薬を飲んでおけば、こうした悪化を防げるのでは?
「かつては、そんなふうに考えられていた時代もありました。体の中で菌が広がる前に抗菌薬で叩いておけば、悪化しないだろう、と。しかし世界中で調査が行われていますが、抗菌薬によって中耳炎や扁桃腺炎、副鼻腔炎、肺炎などの二次感染を予防できる、という結果はありません。万が一、細菌による二次感染が起きたら、それが分かった時点で抗菌薬を使い始めればいい――それが、現段階での医学の答えです」
驚くことに、抗菌薬を飲んだグループとそうでないグループを調べたところ、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎をはじめとする二次感染の発生率に差はないのだそう。
それどころか「風邪ごときに抗菌薬を処方するのは、むしろ、デメリットのほうが大きい」と、原先生は警鐘を鳴らします。
抗菌薬の乱用はデメリットばかり
私たちの体には、腸管や皮膚、口内、性器などにたくさんの細菌が住み着いています。これらの「常在菌(じょうざいきん)」は食べ物の消化を助けたり、外から進入してくる悪い菌が増殖・定着するのを防ぐ役目を果たしています。
「抗菌薬(抗生物質)は、悪い細菌だけでなく、常在菌まで殺してしまいます。服用後に便がゆるくなることがありますが、これは薬によって腸内の細菌バランスが乱れてしまったためです」
近年、腸内細菌の種類のバランスが、アレルギーの発症や、ウィルスや細菌への免疫にもかかわっているのではないか、と示唆する研究も出てきています。常在菌は、私たちの健康に大きな影響を与えている大事なもの――。
さらに原先生は、抗菌薬の不適切な処方によって生まれる「耐性菌(たいせいきん)」も大きな問題だと指摘します。細菌によって命にかかわる肺炎や髄膜炎をおこしているのに、薬が効かない――そんなケースが医療現場で増えているのです。
なぜ抗菌薬で耐性菌が生まれてしまうのでしょう? メカニズムの一例を教えてもらいました。
「薬によって体内の多くの菌が抑えられますが、もともとその薬に抵抗力をもっていた一部の菌だけは増殖していき、やがて薬を分解・無力化する酵素を作り出すようになります。その情報は、あとから体に侵入してきた別の菌にも伝達されてしまうのです」
ひとたび体内に耐性菌を作ってしまうと、その後に侵入してくる菌も、薬への耐性を獲得してしまう……子どもに良かれと与えていた薬が、こんなことを引き起こすなんて。怖くて飲ませられなくなってしまいそうです。
「ですが、抗菌薬でなければ治療できない病気も、たくさんあるのです。
たとえば、溶連菌(ようれんきん)による咽頭炎、化膿するほど重い中耳炎、細菌性の下痢や肺炎、命にかかわる髄膜炎、喉の腫れによって窒息死する喉頭蓋炎(こうとうがいえん)、マイコプラズマ肺炎……。こういった感染症は、抗菌薬が第一の治療法です。
抗菌薬によって、たくさんの命が助かってきたことを忘れてはなりません」
子どもに処方された抗菌薬が本当に必要なものか、どう見分ければいいのでしょうか。
「どんな菌に感染しているのか、医師に質問してみるといいでしょう。『菌の種類は分からないけど念のため』『中耳炎や副鼻腔炎などの予防のために』という答えならば、その薬は不要だと考えていいでしょう」
2013年12月27日更新
原朋邦(はら・ともくに)先生
はらこどもクリニック院長
熊本大学医学部卒業、関東中央病院でインターン、同大学院研究科修了。熊本大学付属病院小児科医局長、国立西埼玉中央病院小児科医長などを経て、所沢市の小手指で開業し20年。外来小児科学会理事や埼玉県医師会裁定委員なども務めた小児科のベテラン医師。
病気の診断だけでなく、子どもや家族の健康増進や予防医療、心の問題にも力を入れている。「トントン先生」と呼ばれ、多くの子どもたちに親しまれている。